Maru Book / まるの本

はじめに

きっかけは3.11(東日本大震災)でした。
未曾有の大震災により、政府や電力会社への不満や、心無い人達による不安を煽るデマで埋め尽くされたSNSのタイムラインに、私はまるの写真をポストしました。当時の風潮では不謹慎と捉えられかねない状況ではありましたが、少しでも不安を和らげるのではないかと思っての行動でした。最初は全く反響はなかったけれど、次第に「ありがとう」「少し元気が出た」などというコメントをもらえるようになり、以来、1日も休まずポストし続けています。振り返ってみれば、1日3枚、3年間で3千枚を超える写真を公開してきました。

インスタグラムをはじめたことにより、海外からのフォロワーが爆発的に増え、コメント欄には、英語、中国語、韓国語、ロシア語、アラビア語など、さまざまな言語が飛び交い、今では約100カ国の方々から応援していただいています。東北から九州までまると日本中をまわり、各地の風景をまるの笑顔と一緒にお届けしているのですが、少し驚きだったのが、何気ない日常生活の写真にも、海外の人たちは日本のよさを見出し、絶賛してくれること。節分、鯉のぼり、四季折々の自然の移り変わりなど、私たちが見落としてしまいがちな毎日の中にも、日本のよさは常に存在していて、「日本に行ってみたい!」「日本はなんてすばらしい国なんだろう」といったコメントをたくさんいただきます。

言葉で伝えるのは簡単そうで、じつは一番難しい。でも写真は、人種、性別、宗教、主義、思想、あらゆる垣根を超え伝えるパワーを持っています。この写真集を読み終わったみなさんの顔が、まると同じような笑顔になってくれていることを、切に願います。

小野 慎二郎

Introduction

The beginning was March 11, the Great East Japan Earthquake.
Because of the unprecedented earthquake, the SNS timeline was filled with people’s complaints against the government and power company and unfounded rumors stirred up by heartless people, and i posted a photo.
Perhaps it might have been interpreted as unscrupulous in the climate of the time, but I took this action with the hope of easing people’s anxiety, even a little bit.At first, there was no response, but gradually, I began to receive comments such as “Thank you” and “You cheered me up a bit,” and I still keep posting without even resting for a day.Looking back on it, I have already published more then 3,000 photos, 3 photos a day for 3 years.As I joined Instagram, the number of my overseas followers has exploded, and the comment column is filled with various languages such as English, Chinese, Korean, Russian, and Arabic, and now I receive support from people from over 100 countries.As I travel around from Tohoku to Kyushu, all over japan, I deliver each place’s landscape along with people’s smiles. To my surprise, people from overseas find Japan’s goodness in photos capturing ordinary, everyday lives and praise them.The setsubun festival, carp streamers, and changes of seasons are things we may miss in our daily lives, but Japan’s goodness always can be found in them. And I receive many comments such as “I want to go to Japan!” and “What a wonderful country Japan is!”Even though it seems easy, but it’s hard to communicate through words.But photography has power to transcend all the barriers such as race, gender, religion, philosophy, and politics.I hope when you turn the last page of this collection of photos, you will be all smiles.

Shinjiro Ono

柴犬まる -Japanese Shiba Maru-

海外フォロワーからも「日本を紹介する犬」として絶賛をうける柴犬・まる、初の写真集。震災で傷だらけになった日本をまる笑顔で少しでも癒すことが出来ればという想いがきっかけとなって始めた柴犬まるとの旅。
お花見、田園、お祭りなど、日本ならではの風景に溶け込む柴犬まるのかわいらしい姿が、世界中に笑顔の輪をひろげています。本書は2万枚に及ぶ写真の中から、皆様に喜んでいただけるような写真を選んでたっぷり収録した保存版です。
「日本にぜひいってみたい! 」と海外から羨ましがられる、日本のよき景色をまると一緒に旅しましょう。
  • 出版社: KADOKAWA/メディアファクトリー (2014/6/13)
  • 商品パッケージの寸法: 17.8 x 17 x 0.8 cm
Buy now!!
81tifdRG69L

「クリスマスセール」に出されていた大きな仔犬は今では世界中にポジティブな連鎖をもたらしている

かわいい盛りの他の仔犬と比べて、明らかに大きさが異なるその仔犬に出会ったのは、近所のショッピングモール内にあるペットショップでのことでした。まわりにいる仔犬より確実に2倍はある。たまに見かける、ランドセルを窮屈そうに背負う小学生。まさにあんな感じでした。私と妻はひと目でその柴犬を気に入ってしまいましたが、共働きな上に犬を飼ったことのない夫婦には、諦めるしかありませんでした。妻はその晩から、その大きな仔犬を「まる」と名付けました。「優しい飼い主さんに出会えるといいね」「まだいるかな?」などという会話を交わし、週末にまるの様子を見に行くのが楽しみになっていました。大きく成長してしまった仔犬は敬遠されがちなのか、他の仔犬が引き取られていくなか、まるだけは長いこと、せまいショーケースに残っていました。気になった私達夫婦は、来週まで残っていたら引き取ろうと話し合いました。偶然にもその日はクリスマスイブの12月24日。まるはクリスマスセールという名目で、出会った当初の半額近い金額で売りだされていました。私達夫婦は迷うことなくまるを連れて帰りました。こうして、何も知らない人間2人と柴犬1頭の生活が始まることとなったのです。

まると出会うまでは、「かわいいな」とか「君たちは苦労知らずでいいね」とか、犬を含めペットを見る目は冷めたものでした。今になって思い返せば、まると出会う前の私は、適当に生きていたし、命を軽んじていたのだと思います。食べる、寝る、歩く、おやつをねだる、私を出迎える、じっと我慢する。当然といえばそれまでだけど、彼らはそれらの行動を常に全力で行います。全力疾走したくても、「失敗するかも…」という理性が邪魔をして、何も行動に移さない自分にとって、一日一日を100%の力で生きるまるの姿は、辛く思えたこともあります。生物に与えられた権利を一番無駄にしているのは私たち人間であり、私はまるからそれを教わりました。

後から知ったのですが、日本のようにペットショップで仔犬を売買出来る国は先進国には少ないそうです。それは、動物愛護の精神から無駄な命を生み出さないという理由からでした。日本には人間の身勝手な行動により殺処分される犬や猫が沢山いて、徐々に減ってきてはいるものの、未だに年間20万頭近くの命が無駄に消されています。こうした事実もまると出会わなければ、気にも止めなかったことだと思います。

まると出会い、私は変わり、新しい世界が開けました。まるがつないでくれたネットワークは今や世界各国に80万人を超え、今もなお増え続けています。私が変わったように、まると出会ったことで何かを感じた人達にも変化があったのであれば嬉しく思います。やがて、その小さな変化が積み重なり、大きな力となるのだから。

私とまるは生きている。すべき事はわかっている。それは、これからも変わらない。

小野慎二郎

91VMV0Mx5YL

柴犬まるのイヤイヤさん

2007年のクリスマスイブに我が家にやって来た、オスの柴犬・まる。家族の一員である彼の姿をシェアしたいと気軽な気持ちではじめた「instagram」ですが、世界中の方々に受け入れられその輪は広がり続けています。その中でよく目にするのが「まるってさ、背中にチャックがついてないよね?」というコメント。 まるたち犬だって、人間と同じように怒ったり、落ち込んだり、寝坊したりします。言葉を話すことができない犬が全身を使って意思を表現する様子が時に人間くさく、時にいじらしく、読者の方たちを和ませているようです。

本書では、そんなまるの普段の姿を通し、「犬あるある」をまとめました。写真のそばについている#(※ハッシュタグ)を目印に、写真を見ていただけるとわかりやすいかと思います。犬と一緒に生活したことがある方ならきっと共感してくれるシーンもあるでしょうし、一緒に生活したことのない方は新しい発見があるのではないかと思います。街中で犬を見かけたら、仕草を観察してみてください。きっとここに書かれているハッシュタグのどれかに当てはまるはずです。

  • 出版社: KADOKAWA/メディアファクトリー (2014/12/5)
  • 商品パッケージの寸法: 18.2 x 14.8 x 1.6 cm
Buy now!!

犬は人間の言葉を話すことはできないけれど、ある程度の言葉は理解する

と言われています。意味はわからなくとも、その言葉に込められた感情を理解していると言ったほうが正しいかもしれません。一説によると、人間が発する感情はある種の匂いとなって体外に放出され、その匂いを犬は敏感にキャッチして人間の感情を判断するのだそうです。わが家でも、夫婦喧嘩をしたときにはまるが心配そうに間に入ってきたり、まるの歯が私の手にあたってしまったときに訓練のために大げさに痛がると申し訳なさそうな顔でいつも以上に顔をなめてきたり…。

犬にも私たちと同様に喜怒哀楽があり言葉が通じなくてもコミュニケーションがとれるということにもっと多くの人に気づいてもらいたい、そんな気持ちで本書をまとめました。

保護施設に預けられた犬で虐待を受けた経験がある子や、新しい里親さん宅でなじめずにビクビクしている子は、名前を変えると精神が安定することがあると聞きました。同じ名前で呼び続けると、痛い経験やつらい過去、昔の飼い主さんに会えない悲しさをずっと忘れられないケースがあるそうです。人間はまだまだやさしくなれます。動物たちは全てを理解した上で、人間達が自分達と同じ目線に立ってくれることを待ち望んでいる。そんな気がしてなりません。

一頭でも多くの犬が、自分の名前を好きになれるように。その思い出が笑顔であふれているように。そんな社会を作れるように、私にできることを模索し続けています。

 小野慎二郎